佳き日に
[2]
「柳琥珀。16歳。福島県在住。御学高校一年生。」
桔梗は椿から教えてもらった情報を鉛丹に早口で伝えた。
「さすが椿だな。仕事が速い。」
「あと、僕らの他にも赤い女を見たって人がいたらしいですよ。」
「つまりこの市にも何人かメモリーズはいるってことだな。」
鉛丹はそう言うとボフンとベットにダイブした。
しかし、すぐに飛び起きて叫び出す。
「なんだこのベット!ほこりくせぇ!」
ドタドタと慌ただしく窓を全開にし、シーツや枕カバーを洗濯しようとする。
そんな鉛丹を桔梗は呆れたように見ていた。
「ほこり臭いのなんて当たり前ですよ。この家二ヶ月前から使われてないんですから。」
そう言って桔梗は室内をぐるりと見回す。
食料品やら衣類やらたくさんのものがあちこちに置かれ、生活感がある。
二ヶ月前までは本当に人が住んでたんですね、と桔梗はしみじみ思う。
あらゆるものが薄く埃をかぶっているのが、二ヶ月の誰もこの家にいなかった時間を感じさせる。
この家の住人に二ヶ月前、何が起こったのか。
詳しいことは知らないが多分、非合法的な、かなり危険なことに首をつっこんだのだろう。
何かでしくじって殺されたか、遠くへ逃げたか。
どちらにせよ、その元住人がこの家に戻ってくることはない。
椿がそう言ってこの家のことを教えてくれたのだから、多分本当だ。
何か食べられるものはないのかとカップラーメンを探していたら、ゴウンゴウンと洗濯機を回す音が聞こえた。
数秒もしないうちに鉛丹が部屋に飛び込んできた。
「なぁ、さっき地図見たんだけどよ、この柳琥珀って女が通っている御学高校ってところ、ここからけっこう近いぞ!」
「・・・行きたい、なんて言わないで下さいよ。」
「えー。」
「ダメに決まってるでしょう。ただでさえ赤い女は危険なのに自ら近づこうとするなんて自殺行為です。」
そう言えば鉛丹はポカンとした顔になって、こう返してきた。
「その前に、柳琥珀は本当に赤い女なのか?」
桔梗は一瞬鉛丹の言っていることの意味が分からなかった。