佳き日に



[1]


「あれ?」

体育が終わって教室に戻ってきて着替えている時、スカートに違和感を覚えた。


あれ、もしかして、自転車の鍵失くした?
琥珀は一気に体温が下がったように感じながらポケットの中をさぐる。

無い。
確信すると同時に、頭を回転させて落とした可能性のある場所を割り出す。

「琥珀、どうしたの?」

「あー、自転車の鍵がなくて・・・」

「自転車にさしっぱなしなんじゃないの?」

「そうかも。ちょっと駐輪場行ってみる。」

自転車の鍵を失くしたと思っていたら差しっぱなしだった、ということはよくある。
というか、自転車の鍵を失くした時の鍵の在処なんてそこぐらいだ。
琥珀も同じようなことを一年に2.3回はやる。

どこからか渇いた声で鳴く鳥の声が聞こえてきた。
校舎内では慌ただしく人が行き交っているのに、一歩校舎の外に出ればこんなに静かだ。

周囲ののんびりとした風景につられて、琥珀は次の授業をさぼりたくなった。
そこら辺の木陰で寝てたいなぁ、といった感じに次々と誘惑が襲ってくる。

次の時間は英語だっけか、と琥珀は考え、単語テストの勉強をほとんどしていないことに気づいた。
本気でサボろうかな、と思うと同時に駐輪場へ向かうスピードが遅くなる。

「threat・・・」

単語テストの勉強はほとんどしていないが、一つだけ単語は覚えていた。
多分、琥珀が雪に会ってからすぐに勉強したのだろう。

“脅迫“という和訳を見て背筋が冷えたことは覚えている。
私は今でも雪に脅されているんだ。

自分の身の危険を再確認した。
これからも雪には気を付けなくては、と自分に言い聞かせているうちに駐輪場に着いた。

琥珀は自分のクラス、6組のスペースへと足を運ぶ。

見慣れた銀色の自転車の後輪を覗き込んだ、が。



「・・・・ん?」







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