佳き日に



鍵が無かった。
自転車には差さってなかったのだ。

予想外のことに琥珀の思考回路は一瞬止まった。
ここにもないってことは、落とし物かな。
もし見つからなかったら、今日は歩いて帰るしかないのか。

少しの不安を抱えながら琥珀が踵を返した時、後方で誰かに呼び止められた。

「ねぇ、そこのお姉さん。」

台詞だけ見るとどこのナンパだよ、という感じだが声は変声期直後の男の子のものだった。
カラッとした真夏の土のような声。
振り返って声の主の方へ琥珀は顔を向ける。

黒くてツンツンとした髪をした少年。
いかにもやんちゃな感じだ。
そしてその隣には毛糸の帽子をかぶった少年が申し訳なさそうに立っていた。
申し訳なさそう、というか、居心地が悪そうだ。
見た目は双子の中学生。
やんちゃな子と、真面目な子。

「お姉さんもしかして、自転車の鍵探しているの?」

その問いに琥珀が頷くと、やんちゃそうな少年は自分のズボンのポケットをがさがさと漁り始めた。
それからポケットから手を琥珀の前に突き出した。
二カッと笑って話し出す。

「さっきそこで見つけたんだ。これじゃない?」

「わ、私のだ!ありがとう!」

やんちゃな少年が突き出してきた手の中には琥珀が探していた鍵があった。
礼を言えば、少年は照れたようにえへへと笑う。

「いや本当にありがとう!あ、お礼!お礼何すればいい!?」

「お礼?」

琥珀が一気にそうまくしたてれば少年はきょとんとした。
その表情がまたなんとも可愛らしかった。
どのくらいかと言うと、琥珀の心がその表情一撃で打ち抜かれるくらいには。

なんだこの子めっちゃ可愛い!!
表情筋が緩みまくってるのも琥珀は気にせずニコニコご機嫌だ。

琥珀の言ったことをようやく理解できると、少年は少し困った表情をした。
それからもう一人の真面目そうな少年と顔を合わせた。

あどけなさの残る2人の少年のその仕草に琥珀はすごく癒された。

「なん、でも、いいんですか?」

「うん!私にできる範囲であればなんでも!」

真面目そうな少年のおずおずとした話し方に琥珀は胸がキューっとなる。
恋というよりは、母性本能がくすぐられるような。

こんな弟が欲しかったなぁ。
かわいい少年達に鍵を見つけてもらい琥珀は幸せな気分で、つまり、浮かれていた。


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