佳き日に
腰を上げ鉛丹の方へ歩く。
友達には親戚と言った手前、本当は敵同士なので迂闊には近づけない。
1mほど間を空けて立てば、鉛丹に苦笑いされた。
「安心しろって。今日はお前に危害を加えたりしねーから。」
鉛丹はそう言い、「ちょっと授業サボれねーの?」と聞いてきた。
彼の隣に桔梗がいないのは何だか変な感じがした。
いつも眼鏡をかけている人が突然眼鏡を外したときの何か足りない感じ。
あの感覚に似ているな、と琥珀は思った。
「私留年したくないからサボらないよ。」
「この辺に喫茶店あったよな?行こーぜ。」
「人の話聞いてる?」
ぐいっと手を引っ張られた。
どうやら鉛丹は本気で琥珀に授業をサボらせる気のようだ。
ちょっと、と文句を言おうとしたら、それを遮るかのように鉛丹が振り返った。
茶色いビー玉のような目が、琥珀を見つめる。
普段とは違うその真剣な瞳に、琥珀は言うべき言葉を失う。
「頼みたいことがあるんだ。」
切実な声だった。
気付けば琥珀は頷いてしまっていた。