佳き日に
[5]
閏と琴が雪に呼び出されたのは一時間程前だった。
待ち合わせ場所は駅の裏側にひっそりとある小さなカフェ。
ただ、カフェなどとは名ばかりで、主な仕事は武器の流通だ。
そのためこの店は危険な仕事に関わる人達がよく利用している。
ベージュ色のカーディガンをはおった閏はこの店の隅に腰をおろしてコーヒーを飲んでいた。
この店のコーヒーは美味しくもないが、ものすごく不味いわけでもない、普通の味だと雪が言っていたのを思い出す。
「美味しくねーし、コレ。」
半年程前一緒にこの店に来てそう言った琴の顔が浮かぶ。
眉を寄せて舌をベッと出した顔。
「普通の味ですから。」
あの時閏は確かそう答えた。
それを聞いているのかいないのか微妙な態度で琴はもう一度コーヒーに口をつける。
「確かに、フツー。」
不機嫌な声でそう言った琴はしかめっ面をしていたのか、微妙な顔をしていたのか。
思い出せないがどうでもいいことか、と閏はすぐに思い直してコーヒーを啜る。
本当のことを言えば、閏は料理を美味しいと感じたことはない。
不味いとも感じたことはないが。
幼い頃にまともなものを食べていなかったせいか、味覚がなくなってしまったようだ。
特段不便だと感じることはないので閏はそのまま放っておいている。
「相変わらず早いな。」
声がした方を見てみると、雪がちょうど店に入ってきたところだった。
灰色のシャツに、黒のズボン。
雪先輩も相変わらずな格好ですね、と閏は微かに笑う。
雪が明るい色の服を着ているところなんて見たことが無い。