佳き日に






「エナカさん、俺のこと覚えてませんか?」

「は?」

「俺たち、二十二年前にすでに会ってるんですよ。」

エナカは眉をひそめる。
二十二年前。

どんなに考えてみても、白川という知り合いはいなかった。
そもそも秘密警察という立場上、同じ職種の人とも、一般人とも関わりを持たないことが定石だ。
誰に裏切られるかも分からない世界なのだから。

エナカだって長年一緒に仕事してきたせんべいの本名も素顔も知らない。

どう考えても、白川とエナカが二十二年前に会ったことがあるとは思えなかった。


眉を下げ白川は口元を歪める。
自虐的な笑みだった。


「ビートルです。俺のコードネーム、ビートルです。」


はっ、と息をのむ。

そうだ、秘密警察なんて素顔を知らなくて当たり前だ。

常にサングラスかマスクをつけている人がほとんどだから。
素顔でいる者などごく一部。

コードネームで呼び合うのだから本名など知る由もない。




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