佳き日に




落ちたさすまたに手を伸ばそうとしたら、先に鉛丹に奪われた。
鉛丹はそれを部屋の隅に投げる。

畳んでおいてあった布団の上にポスリとさすまたは落ちた。


「いいじゃねーか一時間くらい。」

「やだよ。私だってやらなくちゃいけないことがあるんだから。」

背中の鞄に意識を向ける。
そこそこ重いから、雨の日記はちゃんと入っているのだろう。

一刻も早く届けたいのに。
エナカの顔を思い浮かべる。

そこで、外からパトカーのサイレンの音が聞こえた。
そして怒涛の勢いでクラクション、耳をつんざくようなブレーキ音。

思わず琥珀は耳を塞いだ。

薄目で鉛丹を見れば、ひどく困惑した顔をしていた。
珍しいな、何か予想外のことが。


それ以上考える前に、琥珀は吹っ飛ばされていた。
爆風によって。

いきなり、琥珀たちが今いるレストルームの隣の部屋が爆破したのだ。


壁に頭を打ち付けながらも、なんとか琥珀は目を開けていた。

バァァァンッという激しい爆音と共に吹っ飛ぶさすまたと、布団と。

身体中を煤だらけにしながらも、琥珀はその光景に目を奪われていた。


生きているうちにこんな光景見れることなんてなかなかない。
まさか。
本当にあの定番ギャグそのままのことが物理的に起こるなんて。



「ーー布団が吹っ飛んだ………」


「アホかお前は!!」



横から鉛丹の鋭いツッコミが飛んでくると同時にぐいっと腕を引かれた。


「逃げるぞ!」


そう言うやいなや目にも止まらぬ速さで走り出す鉛丹。

物凄い速さで階段を二段飛ばしで駆け下りる。
琥珀も必死に着いて行く。


一体誰が味方で、誰が敵なのか。


琥珀のよりも少しだけ大きい角ばった手に引かれながら、琥珀の頭は疑問でいっぱいだった。




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