佳き日に






ガンッとまた左から体当たりされた。
桔梗の体が衝撃で琴の方へ寄りかかった。
元に戻ろうと思うのに、体が動かない。

縁石に車のボディを引っ掻いた嫌な音も聞こえた。

自分たちが今どこを走っているのか桔梗には全く分からなかった。


「対人用の麻酔銃なんてごく一部の国でしか製造されてないやつだし。オマケに弾丸も普通のやつとは桁が二つくらい違う高級品だからなかなか使わないのにそれに当たるとかお前運悪すぎだし。」


ますいじゅう。

琴の言葉が頭の中でぼんやりと繰り返される。

麻酔銃。

この、頭がぼんやりして上手く物事を考えられないのは麻酔のせいなのか。


「俺はこんなとこで死にたくないし。お前だってそうだろ。」


目はぼんやりと対象を捉えることが出来ないので琴がどんな顔をしていたのか分からない。

ガチャ、とシートベルトを外す音。

目の前が暗くなる。
がっちりと抱きしめられて、次の瞬間、感覚がぼんやりしている桔梗でさえもはっきり分かるくらい強く、速く、後ろから車が体当たりしてきた。


ガシャァァァンッと物凄い音。

何か大きなものにぶつかったような。


勢いのまま前に吹っ飛ばされる感覚がする。
しかし、力ずくで横に引っ張られた。

プラスチックも植物も全て焼けたような匂いがする。

物が燃える匂い。



朦朧とする意識の中で、兄の声を聞いた気がした。









< 516 / 627 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop