佳き日に

[1]


バスから降りた後、琥珀は携帯を操作しながら歩いていた。

これから遊びに行く予定の人物、エナカにメールを打つためだ。

琥珀とエナカの出会いは本当にたまたまだった。
自転車でどちらからともなく衝突してしまった時、琥珀が膝を擦りむいてしまった。
それを手当するためにエナカの家にお邪魔した時に、お菓子を食べながら話がかなり弾んだのだ。

それからはちょくちょく琥珀はエナカの家へ遊びに行くようになった。

かなり年は離れているが、母と子のような友達関係だ。
エナカは口うるさくなくていい。

「こ、れ、か、ら、遊びに行きます、と。」

自慢ではないが、琥珀の携帯は最近代えたばかりだ。
つまり新機種。
まだ扱いに慣れてないのに、歩きながら打つのは至難の業だった。

だからか、後方から追い越そうとする人が来るのに気づかなかった。

トンッと手に鈍い衝撃。
携帯を落としてしまう。

「あ、すいません。」

「あ、いえ。」

無情にも相手はすぐにスタスタと行ってしまった。
あまりの速さに顔もまともに見れなかった。
ひどい人だな、と思い、それから琥珀は落としてしまった携帯を探す。
だが、ない。
アレ?と思い辺りをキョロキョロしていると、車道でブロロロロ・・・と音を出しながら大きな車が通って行くのが見えた。

同時にバキャゴッという、機械類が壊れる音も。

琥珀は大きな車が通った後の地面に、見るも無惨に壊されたものを見た。
ついさっきまで琥珀の携帯だったもの。

さっきのバキャゴッ、という音は、携帯の断末魔だったようだ。



「えぇぇぇぇえぇ!!?」


ようやく事情を飲み込めた琥珀の叫び声が、空しく道路に響き渡った。



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