『短編』紙婚式
「菜々」
耳元で静かに囁くと、わたしの耳たぶを甘噛みした。
ぞくっと体が反応したけれど、わたしは逃げるように布団の中に潜った。
「抱きしめたい」
いつもならきっと、体が火照ってしまう亮のかすれた声。
だけど、今日はどうしてもだめだった。
そんな気分になれない。
わたしは黙ったまま亮に背を向け、小さくなった自分を抱きしめた。
「何もしない。抱きしめるだけ」
亮はそっとわたしの肩に手を乗せた。
温かい手が、切ない。
だけど、わたしは唇を噛みしめたまま、小さく首を横に振った。
ふっと肩から消えた、亮の体温。
孤独を感じた。
亮が寝返りを打って、わたしに背を向けたのがわかった。
自分で亮を避けたのに、抱きしめてほしいと願っている自分がいた。
矛盾している自分がイヤだった。