『短編』紙婚式



「菜々」



耳元で静かに囁くと、わたしの耳たぶを甘噛みした。



ぞくっと体が反応したけれど、わたしは逃げるように布団の中に潜った。



「抱きしめたい」



いつもならきっと、体が火照ってしまう亮のかすれた声。



だけど、今日はどうしてもだめだった。



そんな気分になれない。



わたしは黙ったまま亮に背を向け、小さくなった自分を抱きしめた。



「何もしない。抱きしめるだけ」



亮はそっとわたしの肩に手を乗せた。



温かい手が、切ない。



だけど、わたしは唇を噛みしめたまま、小さく首を横に振った。



ふっと肩から消えた、亮の体温。



孤独を感じた。



亮が寝返りを打って、わたしに背を向けたのがわかった。



自分で亮を避けたのに、抱きしめてほしいと願っている自分がいた。



矛盾している自分がイヤだった。


< 17 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop