Nine
さっき彼が買っていった
モンブランの香りが
そよ風に乗って鼻腔をくすぐる。
普段なら好きな匂いだけど
今は気持ちが悪くなる。
耳元で、荒い息づかいが聞こえてきて
彼の左手が私の脇腹を撫で始めた。
「───っ!」
思わず突き飛ばそうとしたけど
右腕が捕まっているから
そう簡単に動けるはずもなく。
左手が次第に上に向かってくる。
その手の薬指には、シルバーの
指輪が光っているというのに。
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