Nine
多分、モンブランとクッキーは
彼の子供へのお土産かな。
ほら、早く帰らないと
寝てしまうよ。
皆でお父さんの帰りを
待ってるよ。
呪文のように
頭の中で繰り返す。
何度も、何度も。
テレパシーがこの世に
存在するなら、きっと伝わるはず。
けど彼がこの場を離れる様子は一切なく
むしろ私を公園横の茂みに引きずり込もうと、腕に力を入れる。
「──…いや、だ」
やっとの思いで絞り出した声は
掠れていて
きっと彼には届いていない。
あ、なんだか目の前がボヤけてきた。
こんな時に何も出来ない臆病者の私は
ただ声にならない声で抵抗を繰り返した。