暗黒と癒し姫
side奏
美しく壮大な日本庭園。
そこに植えられた立派な桜の木の下にその少女はいた。
風になびく艶やかな黒髪。
きめ細かい白い肌。
くっきりした二重に大きな瞳。
長いまつげにスッと通った鼻。
小さくてプックリとした薄ピンクの唇。
まだ幼さがのこる容姿だが、数年後には驚くほどの美姫になるであろうことが容易に想像できる。
桜柄の着物に身を包んだその少女こそ、俺が命に代えても守り抜くと誓った珱姫(ヨウヒメ)様だ。
「姫、どうかした?」
そっと近づき声をかける。
「奏…私はあなたを心の底から大切に思うておりまする。」
「……………え?」
「幼き頃より、私は守られてばかりでした。だからこそ……決めたのでございます。」
こちらを一切見ることなく、ただ桜の木を見上げながら話す姫は、どこまでも気高く美しかった。
まだ齢10だというのに。
「私も強くなりとうございまする。覚悟を…決めるとき。」
こんなにも愛おしく思う姫の元を、あと数日後には去らなければならない。
ボスよりの任務で……。
「奏、私はあなたを…お慕い申し上げております。」
「………っ!!」
主と従者。
暗黒と純白。
不釣り合いなこの関係も、今は身分違いの恋だととやかく言われることなどありはしない。
だけどいきなりのそれは俺の心を荒立たせるのに十分だった。
「あなたも私もまだ10です。なれど数日経てば離ればなれにございます。」
姫の声はどこまでも澄んでいて、心にすっと響く。
だけど少しだけ、ほんの少しだけ震えていた。