愛は満ちる月のように
真は悠が家を出てからも数回会いにきた。忙しいと言い訳して、ろくに話もせずに追い返したが……。


「その分なら、去年、桜さんが婚約破棄したことも知らないんでしょうね」

「それは……」


そのことは知っていた。

東京の本社に戻ったときは必ず社長の叔父や、重役である叔母の夫に挨拶をする。彼らを通じて、妹の桜が去年の正月に婚約し、春には解消したと聞かされた。

理由まではわからないが……。


「昨夜、ご両親のことは聞いたわ。でも、弟妹は別じゃないかしら?」

「……事情があるんだ」

「そう……あなたを軽蔑するような事情じゃないといいのだけれど」


美月はサラリと返して、コーヒーに口をつけた。


(軽蔑されるかもしれないな)


口にできない言葉を、悠は心の中でつぶやいた。


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