愛は満ちる月のように
「今日は取材かな? 結婚生活は順調かい?」


自分に向けられた質問は無視して、相手に尋ねる。

すると、


「暁月城の取材なんです。結婚は……半年で別れました」


彼女は笑って答えると、ふいに悠の近くに身体を寄せた。ごく自然に腕を掴み、背伸びしてささやく……。


「一条さんとのセックスが忘れられなくて。また付き合ってくれませんか? いつでも電話待ってますから」


いつの間に取り出したのか、彼女はネームカードを悠の上着のポケットに押し込んだ。

グロスに艶めいた唇が、悠を見つめて思わせぶりに微笑み……彼女はあっという間に、撮影クルーと共にいなくなった。



悠がポケットに手を入れようとしたとき、背後から別の手が押し込まれた。


「ふーん、テレビ局の人なのね。ユウさんと同じ歳くらい? 今の人は、私の存在を知ってるのかしら? それとも、知られたら困る……とか」


< 140 / 356 >

この作品をシェア

pagetop