愛は満ちる月のように
「ユウさんはお城のこと、詳しいの?」

「いや、実のところ、ここに来るのは今日が二……三回目かな?」


手を繋いで石段を上がりながら美月に尋ねられ正直に答える。

最初は地元商工会のメンバーに案内されて天守閣まで登った。展示されている品も、最上階からの眺めも大したものだとは思う。だがとくに、何度も登ろうと思うことはなかった。

悠の抱いた感想は、この石垣なら道具なしのフリークライミングに最適だ、といった不謹慎なものくらいか。そんなふざけた感想が口にできるはずもない。

あとは昨年、那智に誘われ花見に顔を出した程度だった。


「あとで天守閣に上がってもいいかしら?」


よほどこういった史跡が珍しいのか、美月は天守閣のある本段まで上がりたい様子だ。

上を見つめながらドンドン石段を上って行くので、慌てて引き止める。


「ああ、わかった。わかった。でも、那智さんたちがいるのはこっちだ」


彼女の手を引き、中段を月見やぐらに向かって進む。

その手前に桜が見え、多くの花見客がシートを広げていた。

下の公園付近と違うのは、火気の使用を禁じられている点だ。騒ぐ若者は少なく、それぞれに花見弁当を手にしていた。


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