愛は満ちる月のように
「昨夜もいきなりバルコニーでセックスしたし……。そういうセックスに、あの人たちは応じてくれたの? だったら、私にもできるわ!」


美月はそれを証明したくて、ワンピースの裾を持ち上げようとする。


「待った! ちょっと待った。美月ちゃ……いや、美月。ちょっと待つんだ」


両腕を掴まれ止められたとき、じわり、と美月の瞳に涙が浮かんだ。

こんなことくらいで泣いたことなど一度もない。周囲に大勢の人がいるのに。子供のころから泣いて親を困らせたことも、同情を買うのも大嫌いだった。

なのに、まるで涙腺が崩壊したかのように涙が込み上げ、熱い水滴が頬を伝う。


「だって、他の人には……じっと顔を見て笑いかけるくせに……。私と、目が合ったら逸らすじゃない。ずるいわ! セックスのときは見てくれたもの。だから、すぐに私を抱いて!」


叫んだ瞬間、ふわっと身体が浮いた。「わかったから、きちんと掴まってるんだ」悠の声が耳もとで聞こえる。


「ご覧のとおりだから、もう抜けるよ。騒がせて悪かったね」


それは多分、那智に言った言葉だろう。


美月は悠の首にぎゅっと抱きついた。自分のものだと人に見せ付けるように。だが、離婚して美月がいなくなれば、すぐにも同じ場所を他の女性が占領するのだ。


悠から色々教わり、たくさんの経験をして楽しい思い出ばかり抱えて別れよう。そう思っていたのに、一度味わった果実はまるで麻薬のようだ。もっと欲しい。悠を独占したい。

そんな思いが美月の中を駆け巡っていた。


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