愛は満ちる月のように
「あ、美味しいわ。昔は嫌いだったのに……」

「大人になると味覚が変わるからね。いいもんだろう? 生ウニも」


ふたりの前には、ベルトコンベアーに乗って寿司の皿がクルクルと回っていた。

美月にお腹が空いたと言われ、彼女のリクエストに応じて決めたのが、マンションから徒歩の距離にある回転寿司だった。

会社関係の付き合いで値札が時価の寿司屋にも行くが、中流階級で育った悠にとって、寿司は回っているほうが落ちつく。

この点、悠は誤解されていることが多い。一条の名前を持ち、後継者として入社したのは事実だ。しかし、大邸宅で暮らし、通勤通学に送迎のリムジンを使うような家庭で育った訳ではない。自宅に執事もメイドもいないし、中学高校と電車通学だった。

そしてそれは美月も同じだと、ボストン時代に何度も聞かされた覚えがある。


「ボストンでも色々お寿司屋さんを回ったわよね?」


悠が昔のことを考えていると、心を読んだように美月もその頃のことを口にした。


「ああ、創作寿司ってのが多かったかな。スパイシーマヨネーズ味とか……アボガドたっぷりってのは勘弁して欲しかった気がする」


寿司とマヨネーズを組み合わせるのが今ひとつ好きじゃない悠には、どうも美味いとは言いがたいものだった。

美月はクスクス笑うと、


「あとお醤油の量がね……。どうしてあんなに浸すようにして食べるのかしら? 生臭くない分、創作寿司は嫌いではなかったけど、あれだけはよくわからなかったわ。第一、そんなに美味しいお醤油じゃなかったでしょう?」


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