愛は満ちる月のように
「ちょっと待て! 真」

「じゃ、おやすみぃ」

「おやすみ、じゃない! お前……わざとだな。寝る前に自分でかけろ」


悠は真の身体を揺さぶる。

だが、起き上がる気配はなく……彼は布団にしがみ付くようにして言った。


「いい歳して電話の一本もかけらんないのかよ。業務連絡だと思えばいいだろう」


その言葉は悠の胸に堪える。

黙り込んだ兄のことをどう思ったのか、真は布団から顔を出した。


「あのさ……ちょっと確認しておきたいんだけど」

「今度はなんだ」

「兄貴と美月ちゃんは便宜上の結婚ってことで間違ってないよな?」


一瞬で後ろめたい感情が浮かび上がる。

だが、真に対して真実を言ったからといってどうなるのだろう。あと一週間もすれば美月と離婚して、彼女はボストンに戻るのだ。


悠はほんのわずか視線を泳がせながら、真の質問に答えた。


「……ああ」

「よかった。じゃあさ、俺、美月ちゃんに頼んでみようと思ってるんだ。兄貴と別れて、俺と結婚してくれって」


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