愛は満ちる月のように
「いえ……ここしばらく、個人的事情でお休みをいただいております。勝手をして申し訳ありません」

「ああ、そのことなら聞いてるよ。例の嫁さんが来てるんだって? 桐生に何かあったのか?」


匡も悠の結婚理由を知っているひとりだ。


「今のところ、そういうことではなさそうです。ただ、彼女本人の都合で、話し合いが必要になっただけですよ」

「もう……七年になるのか? 桐生も色々顔ぶれが変わって、激しい動きは見えなくなったな。私の知る限りでは、だいぶ力が弱まったように思うんだが……」


革張りのソファに腰を下ろしたまま、匡は眉間にシワを寄せ深刻そうにうなずいている。


(こうして見ると、匡叔父さんと父さんてよく似てるんだよな……)


そのふたりに限らず、一条家の男はだいたいよく似ている。匡の隣に立っていると、『よく似た息子さん』と評されることも多い。

悠は複雑な感慨に浸りながら、


「ええ、そうですね。ご心配をおかけして申し訳ありません。それに関しては現在調査を頼んでいますので……一両日中にも返事があると思います」


人払いをしてふたりきりになった応接室で、匡の正面に座った。


「そうか。そうなったら、ようやくお前も“自由の身”だな」


悠の気分にあまり相応しくない表現をしつつ、匡は相好を崩した。


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