愛は満ちる月のように
だが、不特定の女性と交際する悠の行動は、周囲から見たらそうなのかもしれない。

悠が何も答えずにいると、


「向こうのほうはどうだ? O市まで追いかけてきたのか?」


今度は声を潜め、匡は尋ねてきた。


「……いえ……今のところは」

「そうか……。まったく、あの女は本当に厄介者だよ。裁判所の命令も平気で無視するし、警察の介入にも引き下がらないんだからな。兄さんがあんな女と結婚さえしなきゃ……」

「叔父さん、もう、そのことは」

「ああ……すまん」


それ以上は聞きたくなかった。

沙紀の件だけは、悠の中ですべての価値観が逆転した出来事だ。逃げていると責められても構わない。可能なら、誰も知らないところまで逃げてしまいたい。それなのに、どうして逃げずにここにいるのか、悠自身にもよくわからなかった。


「あの、叔父……いえ、社長。ここに私を呼ばれた用件はなんでしょうか? 大阪支社に何か問題でも?」


悠の肩書きは西日本統括本部長だが、この大阪支社は支社長の監督下に入る。そのため、あまり大阪支社のことは詳しくない。

その大阪支社に呼び出されるということは……。


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