愛は満ちる月のように
「いや、ここに来たのは定例の視察だ。あと、ついで、というヤツかな」

「ついで、ですか?」

「大阪市内のホテルで、遥(はるか)が師事する流派の華道展があるんだ。そういうときには顔を出しておかんとな」


匡は少し恥ずかしそうに笑った。


遥は叔父の長女の名前だ。二十七歳で独身。子供のころから続けてきた華道の准教授となり、教室を開いているという。

ちなみに次女の歩(あゆみ)は二十四歳。短大在学中に妊娠して、なんと箱根にある老舗旅館の跡取り息子に嫁いだ。現在は二児の母と聞く。


「……はあ……」


それと自分にどういう関係があるのか、悠にはさっぱりわからない。


「最後に遥と会ったのは、もう五~六年前だろう……美人になったぞ。歩は母親似できついところもあるんだが、遥はこんな父親にも優しくしてくれる、いい子なんだ。お前も一緒に来い」

「え? あ、いえ……実は、それほどのんびりしている訳には……。実は、弟の真がO市まで来ていまして……その、色々相談があるらしく。明日の朝には帰京するというので、なるべく早いうちに戻って話を聞いてやりたいと思ってるんですが……」
 

心の中で、ダシに使ってすまない、と真に詫びる。

すると、匡は思いもかけない言葉を口にした。


「悠、こんなことは言いたくなかったんだが……。“遠藤沙紀”の件で、お前は後継者に相応しくないんじゃないか、という声が上がってる」


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