愛は満ちる月のように
「待ってください! それは……」

「わかってる。若気の至りは誰にでもある。問題はそのあとだ。――桐生の名前で抑えていた部分も大きいが、さっきも言ったように力が弱くなってるだろう? そうなると逆にマイナス面が目立ちはじめてるんだ」


美月に災いをもたらした桐生の権勢。それは奇しくも強力な後見となり、マイナスを抱える悠の後押しとなった。

だが、その桐生の力が弱まっている。美月にとっては朗報だが、悠の評価に影を落としていた。


「元々、桐生の力をアテにしていた訳ではないでしょう? 僕が美月と結婚したのは偶然だ」


勝手に期待して、勝手に期待はずれだというのはあんまりだろう。

プライベート以外で、悠の仕事ぶりにマイナス評価はないはずだった。マイナス面を口にしているのはおそらく、一条の名前を持つ親戚筋の株主に決まっている。

悠の後見に里見がいることを面白く思わない連中だ。


「そこで相談だ。そろそろ形式だけの結婚はおしまいにして、きちんと公表できる妻を迎えたほうがいいんじゃないか?」

「叔父さん、それは」

「遥とは従兄妹になるが結婚するのに問題はない。うるさい連中も黙らせることができるし、里見副社長も賛成してくれた。兄さんも……悠が決めることだ、と。本気で一条を継ぐ気があるなら、真剣に考えてくれ」


悠は無意識のうちに左手の指輪に触れていた。 


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