愛は満ちる月のように

(5)離婚と結婚の理由

「お久しぶりです。すっかりご無沙汰してしまって……」


一条遥はベージュ色のパンツスーツを着て立っていた。にこやかな笑顔で会釈する。


叔父のマンションに何度か出向いたが、彼女に会うことはなかった。娘はふたりとも母親と一緒に白金台の自宅で暮らしていると、悠がボストンから帰ったころに聞いたことがある。遥とも最後に会ったのがそのころだ。

どちらかといえば華やいだ場所が苦手そうな女性だった。まだ妹のほうが社交的だったように思う。


だが今は、華道の先生をしているというだけあって、非常に美しい身のこなしで堂々としていた。


「いや、こちらこそ。匡叔父さんにはいつもお世話になりっぱなしで申し訳ない。本当なら叔母さんのところにもご挨拶に伺わないといけないのに……さぞ、怒っておられるだろうね」


そう言いながら、悠も軽く頭を下げた。


遥の母、由美は悠の母より少し年上だ。悠や遥たちが小さいころは仲がよかったように思う。

だが、静夫婦が祖母と暮らすようになり、しだいに由美は夫の兄弟との付き合いを避けるようになっていく。

そして悠が一条の後継者として会社に入ることが決まったとき、あからさまな不満を口にしたのだった。


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