愛は満ちる月のように
(どうも僕は、由美叔母さんに嫌われてる気がする。沙紀との一件が理由のような気はするが……でも、もっと前から……)


「気になさらないで。あんな嫌味ばかり言われたら、誰だって近づきたくないわ。ごめんなさいね……母が不満に思ってるのは私なんです。男の子だったらよかったのに……なんていつも言ってるから」

「今の時代、性別は関係ないんじゃないかな? 男でも女でも、その気になれば一条の家は継げると思うよ」

「財産は……そうね。でも、母が継いで欲しいと思ってるのは会社だから。私は、ご長男である聡叔父様の息子さんに返すのは当然だと思うんだけど……そうは思わない人が母のことを焚きつけているのよ。私に似合いの親戚筋の男性がいるから、ってお見合いの席まで用意して」

「ああ、それで、叔父さんが僕と君を結婚させようと言い出したんだ」


遥は困ったように笑い、うなずいた。


結婚した相手が遥に代わって会社の代表権を持つ。遥はそのまま華道教室を続ければいい。一族経営を続けるなら、これが正しい道だ。誰もが納得する。

――そんなふうに諭されたという。


「納得しないんじゃないかな? とくに、里見の叔父さんとか静叔母さんが」

「そうなの。母はなぜか悠さんを仮想敵のように思って、それくらいなら父も失脚して里見叔父さんが社長になればいい、なんて言うのよ」


遥は笑うが悠にすれば笑えない。


「やっぱり、叔母さんはよっぽど僕が気に入らないんだな。叔父さんも無茶を言うよ。遥の結婚相手が僕なんて……挨拶に行っただけで、叔母さんに家から叩き出される」


悠は大きく息を吐いた。


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