愛は満ちる月のように
「自業自得なのはわかってる。責任転嫁をする気はないよ。でも、あの沙紀って女、教えてもいないのに僕の携帯に電話してきたんだ。『今度はいつ会える?』そう言って」

「い、一条……おまえ、何かしたんじゃないのか? 何か期待させるようなことを言った、とか」


何も言った覚えはない。これでも弁護士を目指しているのだ。迂闊な言葉だけは口にしないよう普段から心がけている。 


「とにかく、俺にはわからないよ。最初に話したとおりの付き合いしかないから、人となりなんて知らないし……。ケー番やメアド替えて、やって来ても無視しろよ。年齢差考えても、おまえってまだ十代だし。責任云々なら、あっちにあるだろ?」
 

悠もそう思っていた。

初めての恋が簡単に終わってしまったことは残念だが、二度とこんな過ちは犯さない。今度こそ、誠実な恋愛をしよう。

次こそは……。


一週間後、すべてを“ひと夏の思い出”にしてリセットしようとした悠の前に、沙紀が現れた。

そして彼女は一通の戸籍謄本を差し出す。

そこに書かれてある名前は『遠藤沙紀』。それは彼女自身の戸籍謄本らしいが、発効日が三十年以上前になっている。どうやら『児島』は別れた夫の姓で『遠藤』が本名のようだ。


(どうして僕がこんなものを見なきゃならないんだ?)


渋々目を通すが、そこに書かれてある名前に悠は驚愕する。

母の欄には『遠藤美和子』という名前が、そして父の欄に書かれていたのは『一条聡』――悠の父の名前だった。


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