愛は満ちる月のように
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「ふざけないで!」


美月の押し殺したような叱声が聞こえ、振り返った瞬間、悠は頬を叩かれていた。

一瞬で、意識が過去から現在……マンションのルーフバルコニーに戻ってくる。


「なんなの? その投げやりな言葉は。信じたいものを信じればいい? それは、何も釈明しないけど自分を信じて欲しい。そういう意味なんじゃないの?」

「そう……じゃない。何を言っても信じてはもらえない。この十年、いやと言うほど繰り返してきたんだ。だから、もう……」

「信じてもらえないも何も、私は一度も説明を受けていないわ。お姉さんの存在をあなたが口にしたときも、ボストンのときもそうよ。何も話さないあなたに、執拗に尋ねることはしなかった」


美月が怒っている。

それは潤んだ瞳でキスをねだる彼女とは別人のようだ。


「あなたから説明してくれるの待っていたからよ。信じて欲しければ、それに相応しい努力をなさい! たとえ容易に信じてもらえなくても、一万回、十万回でも、伝えたい真実は繰り返すべきだわ!」


その気迫に押され、たじたじになりながら悠はどうにか口を開く。


「真実を知ったら……君はきっと僕を軽蔑する。抱かれたことを後悔するかもしれない」


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