愛は満ちる月のように
父は脅迫の事実を警察に報告した。起訴されなくても、本気を見せて追い払おうとしたのだろう。だが、そのことが母の耳に入り、母は沙紀の存在を知った。

自分と出会うはるか前のことなのだから、話しておいて欲しかったという母と、すでに終わったことだと言い張る父。ふたりの間に亀裂が入り、少しずつ離れていく。

教えてくれなかったのは実子だからではないか、と母が疑い始めたとき、沙紀は釈放された。


親子でないことを認め、悠との関係を口外しないという念書も書かせた。にもかかわらず、沙紀はあっさり約束を破り、悠との関係を母に暴露したのである。

それも姉弟と知った上で関係した。悠が望んだから応じただけなのに、妊娠させられた挙げ句、中絶まで強要されて……。ばれたら困るから脅迫罪で訴えるなんて。父親が父親なら息子も息子――『妹には手を出してないといいのだけれど』そんな言葉まで口にした。



「正直、父のことは諦めがつく。子供のころから感じていた疑問に答えが出たような気もした。でも母は……。沙紀の言葉は嘘だ、何も知らなかった、信じて欲しい――そう言って縋った手を振り払われたんだ」



『触らないで……桜と紫にも近づかないで……汚らわしい! 悠も、聡さんも、もう信じられない!』


絶望に満ちた母の泣き声は悠の弱りきった心に直撃し、彼の価値観は根底から崩れ落ちた。


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