愛は満ちる月のように
「だったらよかった。僕のせいで、お姉さんは友だちとケンカすることもあったから……」

「ケンカ? 美月がかい?」


美月なら遠慮なくやるかもしれない。理不尽なことなら、たとえ身内でも容赦なく言い負かしそうなタイプだ。

小太郎がゆっくりと説明してくれたところによると……。


どうやら、美月とはあまりに違う弟の存在に、友人たちは気遣いを忘れるか、やり過ぎるらしい。どちらも結果的には同じで、友人らは小太郎を避けるのだという。


「遊園地とか行くときは必ず僕も連れて行ってくれて……。でも僕は苦手なものが多いから」


いつだったか美月が話してくれたことがある。

中学時代の彼女は人と話を合わせて付き合うのが苦手だったという。嫌いではないのだが、同じ気持ちになって楽しめないので疎外感を抱くのだ、と。

そんな彼女を人の輪に繋ぎとめてくれるのが小太郎の存在だった。

自分を頼りにして、しっかり手を握り返してくれる弟を少しでも楽しませてやりたい。その一念で、中学時代の彼女は多くの時間を弟のために割いた。そのため、友人たちとの付き合いに、弟を同伴することが多かったのだという。

ただ、未就学児童の小太郎が中学生と一緒に遊べるはずもない。

ましてや、多くの人が楽しいことでも、小太郎には苦手に思えることも多かった。そんなとき彼は堪え切れずに泣き出してしまう。


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