愛は満ちる月のように
悠との関係が一年を過ぎたころ、あまりに見えない妻の影に千絵は疑問を感じ始めていた。そこに近づいたのが沙紀だ。

自分は悠の腹違いの姉である。実は結婚というのは形ばかりのこと。弟に幸せな結婚をして欲しいから、あなたが悠を本気で愛しているなら協力したい。そう言ったのだという。

沙紀は実に一条家のことをよく知っており、千絵は完璧に彼女を信用してしまい……。

『私から色々聞いてるって知ったらあの子を怒らせると思うわ。だから、協力は内緒でさせてね。でも、生活に余裕がないから、いつまでここにいられるか……』

沙紀のほうから金品を要求した訳ではない。ただ未来の義姉を気遣い、千絵のほうから色々な世話を申し入れただけだ。

しかしそれが半年も続けば、千絵が法律事務所の経費として計上する不正な金の流れに、父が気づかないはずがない。

金の使い道を問われ、

『一条さんは実は独身なの。結婚相手を探されていて、私がお姉様のお世話を任されたのよ。それって、どういう意味かわかるでしょう?』

千絵はそんなふうに答えてしまった。

まさか弁護士である父が“一条悠と娘の結婚”を利用して、多くの企業から便宜を図ってもらうなど思いもせずに。



「そもそも、同じ女性と二年近くも関係を続けたユウさんにも責任はあると思うわ。たとえ、あらかじめ遊びだと伝えていたとしても、ね」


美月が睨むと悠は顔を逸らせた。


「わかってる。裏に沙紀がいると知っていれば、あんな……」


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