愛は満ちる月のように
「それは……そんな生き方、ユウさんには似合わないわ」


美月は思い切って言う。

悠に似合うのはもっと穏やかで誠実的な生き方だ。

だが、当の悠は違う意味に捉えたらしい。


「そうかもしれないな。もう、女には近づかないよ。この女の後ろに沙紀がいるかも、なんて思いながらじゃ、勃つものも勃たないからね」


戯れた口調で悠は笑う。

沙紀に対する怒りを通り越した悲しみ――悠の苦悩を美月はどうにかしてあげたいと思った。



「スーツが……汚れてしまったわね」


美月は悠の前に跪き、ズボンの膝に触れた。

柵の錆びか、石垣の苔が付いたのだろう。クリーニングに出しても元通りになるかどうか微妙なところだ。


「無理はしてない? どこか、痛かったら言ってちょうだい」


すると、悠は美月の手に自分の手を重ねた。


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