愛は満ちる月のように

(6)十五夜の告白―1

那智の部屋は床がタイル張りになっていた。

三階のリビングとキッチンは靴を履いたまま、四階に上がるところで脱ぐ。かなり古いビルなのですきま風を感じる。だが、ソファやテーブル、リビングボード、壁にかけられた時計など、使い込まれた家具や備品が並んだ趣のある部屋だった。


悠の部屋は新しくて綺麗だがまるでモデルルームのような、無機的なイメージだ。

今の悠にはよく似合うが、昔の悠とはどこかずれて思える。


無言の時間が流れ、思い切って口を開いたのは美月だった。


「――ごめんなさい。危険を顧みずに助けてくださったのに。お礼もちゃんと言えなくて……あの、ありがとう……」


美月の謝罪に悠は顔を上げ、困ったように笑う。


「ああ……那智さんが余計なことを言うから……」

「いいえ、最初にお礼を言うべきだったわ」

「気にしなくていいよ。君の言うとおりだ。――後くされのない女性と気楽な付き合いを楽しむ。真摯な恋愛を望む女性には絶対に近づかず、誰も傷つけない。そう思ってきたのに……結局、沙紀の手の上にいたんだな……」


悠はソファに腰を下ろし、深いため息を吐きながら天井を仰ぐ。


< 269 / 356 >

この作品をシェア

pagetop