愛は満ちる月のように
「僕はいい。君に怪我をさせてしまって……本当に申し訳ない」


怪我といっても、ストッキングが破けて膝を擦りむいた程度だ。あのまま落ちていれば、間違いなく救急車のお世話になっていただろう。


「謝らないで」

「でも、僕の面倒に巻き込んで……」

「妻だもの。まだ、わたしはあなたの妻だから……」


美月は膝をついたまま、少しだけ背伸びをして悠に口づけた。

一瞬驚いた顔をしたが、悠はすぐに彼女の腰を抱き、キスに応じてくれる。


「今日は満月だな」

「ええ……そうね」


彼に抱き締められ、助けられたときのことを思い出す。

悠の香りを美月の肌が覚えていて、それは我慢できないほど彼女を駆り立て……。

美月は自ら手を伸ばし、悠のベルトを外し始める。


「おいおい美月ちゃん、ここは那智さんの部屋だよ」

「好きに使っていいって言ったもの」


我ながら、子供みたいに駄々をこねた口調だ。


「僕は……君にも嘘をついてる。酷い男だよ」


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