愛は満ちる月のように
挑戦的なまなざしと共に、そんな言葉をぶつけて来た。


「それで私が触れた途端――セクハラだ、暴行未遂だ、と言い立てるつもりだろう?」

「さあ、どうかしら。ああ、なんだかお腹が空いたわね。今夜は泊まるところが決まってないの。ピザでも頼もうかしら……ユウくん、あなたも食べる?」

「いい加減にしないか! 少しは恥を知ったらどうだ?」

「だったら警察でも呼ぶ? 私は構わないわよ」


不遜な表情で沙紀はせせら笑った。


警察を呼べば一から説明しなくてはならなくなる。

沙紀と顛末を話し、恥の上塗りをして、それでも彼女を拘束できるのはせいぜいひと晩がいいところだ。

一応、承諾を受けてここまで来ている。色々言及すればフロントの責任も大きい。およそ無理を言って鍵を開けさせたのだろうが、落ち度は悠自身ゼロとは言えない。


(どうやったら穏便に追い出せるんだ……)


混乱が悠の心に隙を作る。

いっそ、金でも払ってしまおうか、と。そうすれば、少なくとも今夜の平安は買えるのだ。

妥協に揺れる心を叱咤するように、美月の声が聞こえた。



『ああ、警察ですか? 事件です……自宅に戻ると不審者が入り込んでいました。ええ……すぐに来てください。住所は……』


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