愛は満ちる月のように

(9)欠ける月―1

美月は驚いて振り返る。


「あなた……もう釈放されたのね」

「ええ、お生憎さま」


頬を歪ませながら沙紀は答えた。


「本当ならひと晩で出してもらえるところを、あなたのおかげで昨夜までかかったわ」

「それで、今度は何? こんなところまでやって来て、追い回すのはユウさんから私に切り替えたのかしら?」


沙紀はバッグから煙草を取り出し、口に銜えると火を点ける。彼女が白い煙を吐き出した直後、美月は煙草を取り上げ洗面台で水をかけて消した。


「ちょっと!」

「禁煙よ。吸いたければ喫煙所に行くことね」

「あなたってガチガチの規則女なのね。バカな千絵といい、ユウくんも女の趣味が悪いわ」

「そうね、否定しないわ。きっと最初に当たった女が悪かったんでしょうね」


美月がニッコリと微笑む。

それを見て沙紀は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「確認しておきたいと思っただけよ。精神鑑定なんか要求して、私をどうするつもりなのか……。あなたの出方しだいで、私も色々考えないといけないし……」


声は震えていて、目も泳いでいる。一見すると気弱な発言に思えた。


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