愛は満ちる月のように
自宅に戻り、暗い部屋に灯りを点ける。

ほんの数日間、この部屋にいた美月の気配はいまだに消えない。部屋のどこに視線を向けても、彼女の幻ばかりが浮かんでくる。

思えば、ボストンで別れてから一度も会いに行かなかったのは、こんな事態を恐れていたのだと思う。

一年間一緒に暮らし、少しずつ彼女に女を感じるようになっていた。だが、手を出してしまう訳にはいかない。自分が触れたら美月を穢すし、彼女は愛されて幸せになるべき人間なのだ。美月を愛したくて、だが、彼女を愛するには不完全な自分が許せなくて……。

同じ時間をかければ忘れられるなんて、とんでもないことだった。

この部屋で彼女とともに過ごした時間などとっくに過ぎているのに、いまだに心から消えない。いや、むしろ……より色濃くなっているのは、どう説明すればいいのだろう。


悠は美月の残像から目を逸らせるように、サイドボードからウイスキーを取り出し、グラスに注いだ。琥珀色の液体の中で氷がカラカラと揺れ、悠は一気に飲み干した。

そのままソファに転がり、目を閉じる。

ベッドに戻るのも億劫だ。いや、正確に言うならこれ以上美月を思い出すのが辛かった。


どれくらい経ったのだろうか?

ふっと意識を取り戻し、同時に、部屋の中に誰かの気配を感じた。

(まさか、美月が帰ってきてくれた? いや……彼女に限ってそんなはずは……)


美月であったらと思う反面、もし、沙紀だったときはどうすればいいのだろう?

一瞬のうちに胸の中が負の感情で満たされ、いっそ沙紀を殺して自分も死のうか、と考える。


だがそのとき、夢か現か部屋にいる誰かは、悠の顔をゆっくりと覗き込むようにして……身体にふわりと何かが乗せられた。

柔らかなブランケットの肌触りに、


(沙紀ならこんな真似はしない――)


悠は飛び起きるようにして人影の手首を掴んだ。


「美月!?」


一気に抱き寄せようとした――。


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