愛は満ちる月のように
「あなたは誰にでも優しすぎる。だからみんなが甘えてしまうのよね……。昔から思っていたのよ、悠さんは夏海おばさまそっくりだって」


母に似ていると言われたことに、悠は衝撃を受けていた。

当たり前といえば当たり前のことだが、これまで思ったことがない。四人の中で誰よりも父に似ていると言われ続けたせいだった。


「自分の車で来ているから、心配しないで。父は……遠藤さんの件にはもう首は突っ込まないと言っていたわ。父に悪気はないとはいえ、余計なことをしてごめんなさい」

「い……や。本当に……遠藤沙紀の件は、僕の責任だから……」

「また、みんなで一緒にお花見がしたいわ。子供のころみたいに、一条の庭の桜……今年もとっても綺麗に咲いていたわよ。来年は奥さんを連れて来てね。私も素敵な旦那様を探しておくから」


遥はパンプスの踵をコツンと鳴らし、懐かしい笑みを浮かべた。


「ああ……努力、してみる」


優しい従妹の言葉に悠も笑顔で返し……。

そのとき、遥の携帯が鳴った。「ちょっとごめんなさい」そう言って電話に出て、三十秒も経たずに彼女の顔が蒼白になる。


「……どうした? 遥?」

「父から、なの……。聡伯父様が……倒れて、救急車で運ばれたって……」


指先から凍りついていく。

まるで氷に押し付けているような冷たさを感じ、悠の身体は小刻みに震えていた。


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