愛は満ちる月のように

(4)リセット

「すまなかったな。おまえもいろいろ大変なときなのに……」


ベッドに横たわる父は想像以上に弱って見えた。

あらゆる意味で見上げてきた父が、いつまでも自分より前を歩いている訳ではない、と感じる瞬間。これが、父と顔を合わせ辛いと思う大きな理由だ。

おそらく悠は、自分で思う以上に父を慕っているのだろう。

認めたくないそんな思いは、認めざるを得ないところまできている気がした。


「いや、別に……」

「だが、美月さんの件はまだ終わっていないだろう?」


父の言葉にドキリとする。

悠の中では何ひとつ終わっていない。それをどこまで知られているのかわからないが、答えられずに横を向いた。


「もっとも、終わっていないのは沙紀の件も同じだが……」

「父さん! それは」


まさか父が、母や桜の前で沙紀の名前を出すとは思わず、悠は声を上げる。

恐る恐る母を見るが、少し困ったような微笑みを浮かべ、父の顔をみつめていた。


「そのことは……母さんや桜の前では……」

「いや、母さんにもきちんと話をして相談したんだ。いろいろ準備をするのに忙しくて……年甲斐もなく無理をしたらしい」

「……準備って? いったい、何をする気なんだ?」

「実はそのことで、おまえに頼みがある」


悠の問いに父が口にした頼みとは……。


< 316 / 356 >

この作品をシェア

pagetop