愛は満ちる月のように
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一週間後――。

父の症状は思いのほか軽く、すぐにも退院できると言われた。だが、母の希望で入院を継続し、様々な検査を受けることになったのだった。

その間、悠は様々な事情から東京とO市を往復する羽目になり……。

父が検査を無事に終え、退院を翌日に控えたこの日、病室には予想外の客を迎えていた。



「なんで私が、こんなところに呼び出されなきゃいけない訳?」


遠藤沙紀がそこにいた。病室に不似合いな濃い化粧をして、四十歳を超えているとは思えないほど派手に装っている。

父に言われるまま、悠は沙紀を探し出し、病院まで連れて来た。思えば、この女とは長い付き合いだが、悠のほうから尋ねたのは最初のとき以来だろう。

実を言えば、なんのためにこの女を呼んだのか、悠にはさっぱりわからなかった。



『そろそろ決着をつけようと思ってね』


日時と場所の指定を昨日尋ねたとき、父はそう答えた。


『何も今、それも病院でなくともいいんじゃないか? たいして悪くなかったとはいえ、倒れてからまだ一週間だ。疲労が蓄積して心機能に負担をかけたんなら、充分に休養を取って、それからでも』

『こういった場所のほうが彼女も警戒しないだろう。それに、倒れたときに思ったんだ。このまま死んだら成仏できそうにないな……とね』


父の言葉に桜は『縁起でもないこと言わないで!』と怒っていた。


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