愛は満ちる月のように
悠の言葉に桜は驚いたようだ。

そんなつもりじゃない、といった視線を寄越してくる。



「悠の好きにすればいい」


それが父の答えだった。

桜が怒鳴ろうとしたとき、父はさらに言葉を続ける。


「だがそれは……この十年とどう違うんだ?」



悠は返答に詰まった。

たしかに何も違わない。

違わないが……そうなった原因はすべて沙紀にある。その元凶をなぜ家族に迎えなければならないのか。


頭の中が真っ白になる悠に、母が口を開いた。


「お母さんね……全部忘れようとして頑張ったの。悠が戻って来てくれるように。そのときは何もなかったみたいに、笑って元の家族に戻れるようにって。でも……そんなことは、無理なのね。悠はいつまでもお母さんがいないと生きていけない赤ちゃんじゃないし、それは、桜も真も紫も同じだから」


母の「ひさし」と呼ぶ声に、繋いだ手を放されたような、複雑な心細さを感じつつ……。


「でも……母さんは母さんだ。母さんが我慢してまでこの女を受け入れる必要なんかない。父さんが無理を言ってるなら、母さんだって父さんのもとを離れたらいい。僕と一緒に暮らせばいい」


それは、十年前にも迫った選択だった。


< 324 / 356 >

この作品をシェア

pagetop