愛は満ちる月のように

(5)勝敗

唖然とするみんなの前で……。


「私の養女になれば、君も一条姓を名乗ることができる」


父の正気とは思えない宣言に、真っ先に反論したのは桜だった。


「冗談じゃないわ! 嫌がらせのためにお兄ちゃんに近づいて、私たちを離れ離れにした人なのよ。お母さんだってちょっとは反対してよ!」


桜の叫びはもっともだ。もっとも過ぎて、悠にも両親の考えがわからず、開いた口が塞がらない。

だが、真は違ったらしい。


「父さんと母さんがいいなら、俺は別に」

「別に、って真……あなたにとって姉になるのよ。それでもいいの?」

「いいも悪いもないし。父さんの戸籍に入ってた人なんだろ? 血は繋がってなくても、姉さんと呼んでたかもしれないし。それに……なんか、よっぽど俺たちと家族になりたいみたいだし……」

「私もいいけど。でも、ちゃんと謝って欲しい。あ、私じゃなくて、お兄ちゃんとかお母さんに。あと、お姉ちゃんにも」


そう付け足したのは紫だった。

下のふたりはまだ子供だと言いたい。だが、逆に大人のような気もして……悠は混乱していた。


「ふたりとも何を考えてるのよっ! 私はこんな女に謝って欲しくなんかないわ。ちょっと、お兄ちゃん、なんとか言ってよ!」


桜は頼みの綱とばかり、悠に縋ってきた。


「僕も反対だ。この女に一条の姓を名乗って欲しくない。それくらいなら……僕は一条を捨てるよ。二度と家にも帰らない。父さんや母さんに会うのもこれが最後と思ってくれ」

「え? ……あの、お兄ちゃん?」


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