ある夕方の拾いモノ -狐と私、時々愛-





「頭領の命?………すっかり次期頭領気取りなんですねぇ、兄様は。その瞳が里中の恐怖の象徴だとわからないわけではないでしょう」


刀の切っ先を突きつけられているにも関わらず、梗は冷静だった。
しかし愁も負けることなく言い返す。



「そんなものは承知の上よ。…ときに梗、ぬしが真に望むものは果たして頭領の座か?我にはそうは見えぬ。ぬしが望むものは」


「―――貴様の命だ!貴様の大切なものをすべて奪って、絶望にまみれたまま殺す!…僕がそこにいてもよかったんだ!たかだか数十年早く生まれたってだけで、そんな呪われた瞳をした奴が次期頭領だ?ふざけるな!」





泣いているような声だった。


私の喉元にかかる爪がさらに傷を深く抉る。
でも不思議と痛くはなくて、私に手をかけている梗のほうが痛みを訴えているみたいで。





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