女王様のため息
奈々ちゃんが話してくれた内容に、全て納得したわけでもないけれど、確かに誰もがお金を稼ぐために働いているわけで、それは生きていくためっていう事で。
やり甲斐ばかりを追って仕事はできないから、それは納得できるし、私だって生活の為に働いているって自覚はある。
幸いにも、自分が得るお給料は全て自分で好きに使う事ができるし、身内を養わなければならない状況でもない。
将来どうなるのかわからないけれど、仕事については、私の意思一つで進退を決める事もできると気づいて、少し気持ちが軽くなった。
司との遠距離恋愛が始まったとして、もしもその関係が躓いてしまったら、仕事は辞めるという選択肢だってあるんだと知って目が覚めたような気持ち。
そのためには、司と結婚して司のお給料に頼らなければならないけれど。
果たしてそれは私と司にとってどうなんだろう。
それに、これまで私が築いてきたキャリアって一体どうなるんだろう。
うーん、と眉を寄せてもよくわからない。
奈々ちゃんとの打ち合わせを終えて席に戻っても、なかなか結論は出ない。
その後、手元に並べている『貸借対照表』の原稿の数字を睨みながら、気持ちは自分の事ばかりに向いてしまって仕事にならない。
株主総会でも必要になる数字だから、校正を間違えるわけにはいかないのに。
まあ、経理部で既に確認を終えている原稿だから、間違いはないだろうけど、それでもダブルチェックは必要だ。
じっと見ていると眠気を誘う小さな文字から視線を上げて大きく伸びをして。
ふっと思ったのは。
この仕事でお給料もらってるんだなってこと。
そして、奈々ちゃんが言うとおり、もし来年私がこの席を抜けていても、代わりの誰かはきっといるはずだっていうこと。
寂しく感じるけれど、それが誰にとっても当たり前の現実であるということ。
そんな現実の中で、会社での私のキャリアは何てちっぽけなんだろうと気付いて、ため息をついた。