女王様のため息


それから、私の講義に対する幾つかの感想を読んだけれど、その多くに『女王様』という文字が書かれてあって、なんだかいらっときた。

私の講義はわかりやすくてためになったという感想が多くて、それにはほっとしたけれど、『女王様に、興味を持ちました』とか『総務部で女王様の下で働きたいです』とか。

私個人への感想もちらほら書かれていて、訳がわからない。

新入社員が、私のあだ名を知っているわけはないから、きっと誰かが教えたに違いない。

そう考えた瞬間、ちらっと浮かんだのは司の顔だ。

設計部の説明の為に来ていた司が、私が会議室を出た後で新入社員に教えたに違いない。

きっと、講義の始まりに、新入社員の心をつかむためにそんな話題をふったんだろうけど、そのせいで、きっとこの先も新入社員の中では私は『女王様』になっちゃうんだろうな。

おいおい司。

一人愚痴っぽく呟いて、報告書を読み進めていくと。

『スタッフ部門配属がほぼ決まっています。
設計の話ばかりの同期の中で肩身が狭かったのですが、総務部のお話を聞かせていただき配属が楽しみになりました。
会社本体を支えていく部署だという事がわかり、私の意識も前向きです。
配属後、後輩になりましたらよろしくお願いします』

女の子からの感想に、嬉しくなった。

私も同じ経験をしたからわかる。

設計部門で設計をする事こそこの会社に入社した意味があって、スタッフ部門は設計部が養っているという、そんな空気さえ漂う社風に、入社した当時は怒りマックスだったけれど。

今では自分の仕事に誇りもあるしどれほど会社にとって重要なものかも理解しているから笑って流せるようになった。

この感想を書いてくれた新入社員の女の子も、何年か仕事に携わって、私と同じ心境で仕事に向かい合ってくれているといいなと思った。





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