女王様のため息


仕事に対しても、司に対しても、ちゃんと自分の気持ちを固められずにいる私だったけれど、司は私と一緒に暮らすために着々と周囲の状況を固めつつあった。

土曜日の朝、一週間の疲れのせいかのんびりとベッドで寝ていると、司から電話がかかってきた。

本当なら、夕べからこの部屋に来て泊まっていくはずだった司だけれど、定時後わざわざ私の席にやって来て

『急用ができたから今日は真珠の部屋には行けなくなったんだ。明日の午前中には行くから』

特に声を潜めるわけでもなく、周囲の視線に気遣う事もなく。

『寄り道せずに、ちゃんと帰れよ』

手の甲で私の頬を撫でながら、にやりと笑っていた。

まだ仕事が終わっていなくて、パソコンのキーボードに両手を置いた状態の私は、そんな司に茫然としたまま。

司と付き合い始めたことを、敢えて自分から公表していなかった私は、周囲がこの様子をどう思うのか気になったけれど、司にはそんな気持ちは全くなかったようで、というよりも、わざと私との関係を周りに知らしめたような。

ほら見ろ。

とでも言っているような表情を総務部内に向けて、私との付き合いを公表してしまった。

『じゃ、無理しないで早く帰れよ』

総務部を出る時にも、わざわざ大きな声で手を振って帰って行ったけれど、その後私が味わった居心地の悪さ。

司には想像できたはずなのに。

やられた。

一晩経っても思い出せる。

社内でも顔と名前が知られている司だから、その行動が注目されて大変だった。

そんな昨日を思い出して、眠い目をこすりながらベッドサイドのスマホを手に取った。

「おはよう。で、昨日の急用ってなんだったの?」

一晩電話もメールもなくて、結構気になっていたわたしは、開口一番に聞いていた。



< 163 / 354 >

この作品をシェア

pagetop