女王様のため息


「暁?すごい、今テレビに出てた人と話してるなんて、すごく妙な気分」

『あー。あれね、こないだ録画したんだ。照れるからその話はやめてくれよ』

「ふふっ相変わらず照れ屋なんだねー。名前も知られつつあるのに、そんなんじゃ潰されるよ」

『脅かすなよ、毎日ぎりぎりでやってるんだからな』

暁のため息と不安げな声が聞こえて、高校時代からこんな男だったなーと思い出した。

成績も上位に顔を出し、見た目だっていいのに、いつも前に出る事なく人の後ろで穏やかに笑っていた。

何故か自分に自信を持てない優しいオトコ。

当時からヴァイオリンの才能が注目されていて、時々マスコミにも登場する有名人だったにも関わらず、謙虚というか弱気な性格は女の子達の保護意欲をそそっていた。

いつも女の子が近くにいて暁の恋人になりたいとアピールしてたな。

そんな女の子達を特に拒むわけでもなく、飄々とながしていた暁だけど、唯一懐に入れて大切にしていた女の子が伊織だった。

「ねえ、朝から公共の電波でのろけまくってた愛妻の伊織は元気にしてるんだよね?」

『ああ。最近バイトも初めて元気にやってるよ』

「そっか。こないだ会おうって約束もしたし、早く会いたい。
伊織にもそう言っておいてよ。で、こんな朝早くから電話をくれるなんて、どうしたの?」

そう言いつつ、靴を履いて、玄関のドアを閉めた。

ガチャリと施錠した後、小さく息を吐いて。

「暁ごめん、せっかく電話くれたのに、これから仕事なんだ。
もし良ければ夜にでも電話かけなおすけど?」

『あ、悪い。そうだよな、そんな時間だもんな。
海から連絡もらって、ちょっと思いついた事があったんだ』

「ん?何?」

『真珠の結婚式が近いってさっき海に聞いて、で、伊織が思いついたんだけど。
真珠の披露宴で、もし良ければ、俺のヴァイオリン演奏なんて……いらないよな?』

電波の向こうで、ははっと笑う暁の言葉が一瞬信じられなくて。

ちょうど開いたエレベーターにも気づかず、言葉もないままに。

「うっそ……」

立ち尽くすだけだった。


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