女王様のため息



そして、相変わらず残業続きの仕事をどうにかこなす毎日があっという間に過ぎていって。

気付けばあと一週間で株主総会。

きっと役員の方々はそれなりに緊張しているはずだし、特に今回新しく取締役に選任される予定の人たちは胃も痛いはず。

今年の株主総会で新しく取締役に選任されるメンバーには。

とうとう、というか、いよいよ。

相模恭汰の名前も入っていて、社内外の話題となっている。

これまで、いち平社員として建築に携わりたいと頑なに拒んでいた取締役の椅子。

今回それを受けたという理由には。

『取締役にならないと、というより、経営権を持たないとできないことが多い』

という事らしい。

わが社の経営権は専務以上となっているので、今回も専務として取締役に選任されるという異例の人事。

『現場まわり担当専務になってやる』

ほとんど本気に近いその言葉に、どれほどの意思がこめられているのか、いつも相模さんの側でその様子を見ている司が熱く語っていたのを思い出す。

『現場の労働環境を整える事がこれからは大切だ。
図面の上で書くだけではない、現場で体を張って作り上げてくれる職人さんたちあっての物件。職人さんたちが働きやすい現場を作る事が大切なんだ』

そんな思いを会社をあげて具現化していく為には会社の方針を決める事ができる経営権を持つ取締役になるしかないと決意しての就任。

『人間として、尊敬するしかない』

司が相模さんに傾倒して目標とするのもわかるし、そんな人と出会えた幸運をうらやましくも思う。

私にとっても、というか、わが社の社員なら、誰もが相模さんを目標とし、頑張る。

仕事の上での関係がそれほど強くはない私でさえも、そう感じるほどの人、相模さん。

そして、私にとっては雲の上の相模さんと、たまたま話す機会があった。



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