女王様のため息
「もしかして、彼女とうまくいってないの?」

不意に浮かんだ事を聞いてみると、ほんの少し司の呼吸のリズムが変わった。

けれど、それは私の願望であり私にとってだけ都合がいい勘違いだとわかってる。

「彼女とのこと、聞きたいか?」

司はゆっくりと顔から腕を外すと、そのまま前を向いて呟いた。

横顔には感情も何も浮かんでいない。ただまっすぐに前を見ているだけだ。

何かを抱えていることは読み取れても、それを隠そうとしているとしか思えない。

「彼女……会った事はないけど、綺麗な人だって聞いてる。司がすごく大切にしてるって。でも、それ以上の事は、聞きたくないかな……」

俯いて、ようやく呟いた言葉は『女王様』というあだ名にふさわしくない絶え絶えな心細い声で。

震えている事も隠せないほどに不安定だった。

司が彼女を大切にしている事は、本人以外の口から時々耳に入る。

その時の切なさを流す術は得ているけれど、司本人の口から聞かされる事は不安以外のなにものでもない。

自分がどう反応するのかも自信がなくて。

「ごめん、彼女と何があったかは知らないけど、聞いてあげられないや」

「……そっか。……そうだな」

司の言葉が悲しく車内に響いた。響いて空中分解。

当てのない言葉はどこにもたどり着くことなく、二人の間に距離とため息を作っただけだった。

そして今、私が司を好きだと、司本人が知ってしまった。

二人とも、相手を思いやってのことなのか、直接的な言葉は避けていたけれど、今この瞬間に。

「司……ごめんね」

私の片思いが露わとなった。




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