女王様のため息
「ねえ、司が仕事を頑張ってるのもよく知ってるし、コンクールにだって挑戦しようって気持にもなったんでしょ?それはどうするの?」
探るように聞いてみた。
「これからも仕事は頑張るし、コンクールで大賞も目指す」
打てば響く答えに、ほんの少し、ほっとしたけれど。
「だけど、それは全て真珠が俺の側にいる事が前提であって絶対条件だから」
強い言葉、そして私を射る視線を向けられて。
「そ、そうなんだ……」
その迫力に押されてどうしようもなかった。
「だから、真珠が会社を辞めるって一人で決めた事には腹が立ったし、正直参った」
「え?どうして?」
「相変わらず俺がいなくても生きていけるって言われているようで、むかつく」
感情を抑えた低い声は、逆に司の機嫌の悪さを表しているようで、私の胸に深く響いた。
司と私が恋人同士になる以前、お互いに特別な気持ちを寄せ合っている事に、どこかで気づきながらも友達のままでいた苦しい日々。
ずっとひた隠しにしていたお互いの本音は、それぞれの喜怒哀楽をも素直に見せる事を避けていたとも言えるまがい物の時間だ。
司と決して交わる事はないと諦めていた私は、司を好きだと思う気持ちを隠す為に司とは関係のない他の気持ちにも鍵をかけてしまいこんでいた。
恋愛感情以外の気持ちでさえ、本音で司に向き合えば、どこかでほころびが出て崩れ始めればあっという間に仮面は剥がれると、怖くて怖くてどうしようもなかった。
司への愛情を知られてしまうと、友達としてでさえ側にいられなくなるという不安と、当時司の恋人だった美香さんへの申し訳なさが私の中に大きく居座っていて。
その気持ちが、私の本心の全てをすり替えて、そして司にも作り物の自分を見せていたけれど。
それは、私だけではなく司もそうだったんだと、気持ちを重ね合わせてすぐに気付いた。
「結局、俺の事が好きだって言いながら、心底頼ってくれるわけではないんだよな」
今だって、こうして拗ねた声で私を責める司を見せられると、これまでの司はどこか本音を隠していて、私に気を遣っていたんだろうなと思う。
まるで睨むような目でさえ、向けられる事はなかったせいか、この状況の深刻さよりも新鮮に感じる気持ちの方が大きくて。
「子供みたい」
私はそう言って、小さく笑ってしまった。