女王様のため息
司の苦しげな声と切ない視線に、私は囚われた。

司は、戸惑う私の気持ちに構う事なく、手元のビールを一気に飲み干して、おかわりを頼んだ。

そんな、どこか早い展開に、私の覚悟が追いつかない。

「司……?」

「ん?俺が夕べの事を簡単に流すって思ってたか?」

くすりと笑いながら、視線だけで私を見た司は、今までになく落ち着いている声と、どこか腹をくくったような態度。

「えっと、流す……っていうのは……」

「ん?これまで通り密な同期としての付き合いを継続していくってこと」

「継続……」

目の前に並ぶ幾つかの料理を食べながらの言葉だけど、それでも司の気持ちが全て私に向けられていると感じる。

食えば?

と言われて、その言葉通りに何も考えずに箸を進めても、揚げ出し豆腐の味も温かさも全く感じなくて、私はただ箸を動かすだけ。



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